偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「稍、ダイヤ付きでもいいんだぞ?」
智史が稍の顔を覗き込んで尋ねる。
初めて聞く「悪友」の甘い声に、卒倒しそうになった小笠原は自ら手首の脈を取って、不正脈になってないか確認した。
「いいの……この、ぷっくりしたデザインがすっごく気に入ったんだ」
稍は左手薬指につけたハーモニーのエンゲージとマリッジのリングをじーっと見つめて答えた。
よく見ると、ダイヤ付きの方はぷっくりの部分が少しシャープだったのだ。
かわいらしさ、愛らしさでいうと、ダイヤなしの方に軍配が上がった。
「じゃあ、青山のはどうするよ?」
野郎のことになると、とたんに小笠原が投げやりになる。困った「営業政策室長」である。
もちろん「大親友」で「悪友」のときだけの仕様ではあるが。
「あぁ、同じでいい」
智史はこともなげに言った。
「……はぁ? おまえ、こんな女々しいデザインの指輪を毎日つけれんのか?」
小笠原が素っ頓狂な声を上げる。
衷心からの本音だろうが、ティファニーにはたいへん失礼だ。
「確かに、ハーモニーは男性がおつけになるにはフェミニン過ぎるということで、ほかのシリーズにされる方もいらっしゃいますよ。
……ほかのものもお持ちしましょうか?」
さすがのティファニーのお姉さんも苦笑する。
稍も、魚住課長のカルティエ・バレリーナ以上のフェミニンさに「普通のにしたら?」と囁いた。
しかし、店員のお姉さんが気を利かせて、ストレートタイプのクラシックバンドリングなども持ってきてくれたにもかかわらず、智史は躊躇うことなく、ハーモニーリングを指につけた。