偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
稍はテレコムセンターの階下に降りて、ファミマで百円コーヒーと「テリヤキチキンとたまごのサンド」を買い、駅前にある滝の広場へ足を向けた。
シンボルプロムナード公園のウェストプロムナードの最南端にあるそこは、滝のように流れ落ちる噴水があるさほど広くない公園だ。木陰のベンチに座り、これからのことを考えてみる。
……どうしよう。この会社はやめとこうか。
とはいえ、しばらくはささやかな退職金があるものの、東京での一人暮らしにはお金がかかる。
稍は杉並の天沼にある家賃七万八千円の1Kのマンションに住んでいた。歩いて十分ほどのところにJRの荻窪駅があり、中野を経由してメトロの東西線茅場町付近にあった前の会社へは半時間ほどで通えたためだ。
だが、前の会社では家賃補助があったが、派遣の今はそれがない。
もうすぐ更新の時期で、そのまま居るにせよ、引っ越しするにせよ、お金が要る。
派遣では半期に一度のボーナスもない。
また、派遣の交通費は時給に組み込まれているところが多く、ステーショナリーネットのようにちゃんと支給してくれるのはありがたかった。
年齢も年齢だし、待遇の良い会社は三ヶ月と言わずに、できるだけ長く続けたいと思っていた。
……会社を辞めたのは、甘かったかな。
稍はランチに行くために持ってきた赤いウニッコ柄のマリメッコのポーチから、フレグランスミストを取り出した。ザ・ボディショップのジャパニーズチェリーブロッサムの香りだ。ミドルノートが桜なので今の季節にぴったりだ。
両耳の後ろにシュッ、シュッ、とプッシュする。
トップノートにフジリンゴが入っているから、フローラルな中にフルーティな香りもやってきた。
……さぁ、午後からもがんばろう。