偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
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「……やり直しだ」

お昼の休憩から戻ってすぐ、隣から冷ややかな声が飛んできた。

午前中に仕上げたはずの「お客様アンケートの集計」である。

「あ…あの、渡辺さんの指示どおりにしたはずなんですけど」

稍がおずおずと言うと、隣のリムレスの眼鏡がぎらりと光った(ような気がした)。

「今まではこれで通ったのかもしれないが、あまりにもわかりづらい。もっと一目で見やすい形にしてくれ」

だったら、最初から麻琴にそう言っておいてほしかった、と稍は思ったが「上司」に対してはぐっと我慢する。それが、社会人だ。

「承知しました。では、どのようにすれば……」

稍がそう言いかけたら、即答された。

「自分で考えてくれ。Bun-Goo秋号に向けてのプレゼン直前で忙しいんだ」

……はぁ⁉︎

「Bun-Goo」とはステーショナリーネットが発行する総合カタログである。

文具から始まった通信販売がオフィス用の家具やコピー機などにまで広がったので、今や「ブリタニカ百科事典か?」というくらいの厚みになっていた。経費が掛かるので、本当は会社としてはネットでの注文販売に一本化したいのだが、まだまだアナログな会社も多くあり、なかなか廃止できないでいる。

MD課は定番商品ではない独自路線の商品なので、そのBun-Gooに載るか載らないで売れ行きが全然違うのだ。

心なしか、入社式で少しお祭りムード的な午前中と打って変わって、新入社員が早速研修に入った午後からは通常業務の雰囲気になり、さらにプレゼンが迫っているということで、MD課全体がなんだか殺伐としてきているような気がする。

「悪いが定時までにやってくれ。
派遣社員には残業をさせられないんだ」

青山はちっとも「悪い」なんて思っていやしない口調で稍に告げた。

……はあぁっ⁉︎

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