偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

智史のくちびるが、稍の首筋を這う。
今までにされたことのない行為だ。

くちびるよりもずっと、なんていうことのない場所のはずなのに……なぜか、くちびるを合わせること以上の段階に進む導火線の役割を果たしている。

時折、(うかが)うような眼差しで、智史が稍を見る。
稍が不安げな顔でもしているというのだろうか?

稍のざっくりしたオフショルダーが、智史の右手でずらされようとしていたにもかかわらず、首筋から肩口へ這おうとしていた智史のくちびるは、また稍のくちびるへと戻った。

まるで、稍を安心させたくて、(なだ)めて、あやしているかのようだ。

……もう、とっくに処女やないのに。

その左手は、萌え袖から出た稍の右手をがっちりと組んでつなぎ留めて、稍が抵抗できなくさせるほど強引なくせに……

なのに、そんな気遣いもする智史のずるい「やさしさ」に、稍は力をすっかり削がれた末に心地よく身を委ねてしまう。

そして、思わずつぶやきそうになる。

……あたしたちはもうあの頃のような、自分たちの意思ではなにもできひんかった「子ども」とは(ちゃ)うねんから。

< 303 / 606 >

この作品をシェア

pagetop