偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

稍のオフショルダー越しに、智史の大きな右手のひらが触れる。その手が、稍の胸をすっぽりと包む。

……が、その直後、智史が忌々しげにごちった。

「……なんやねん、この固い感触は」

オフショルダーが、ずりっ、と下げられる。
その下に身につけていたユニクロのブラトップが現れた。そのカップが「触感」の邪魔をしていたのだ。腹立ち紛れに、そのブラトップの中に、智史は右手を差し入れた。

初めて、智史の大きな手のひらが稍の生身の肌に……乳房に触れる。

思わず「ぁあ…っ」と稍の声が漏れた。
変な声が出てしまったと、とっさに智史を見る。

二人の目が、合ってしまった。

智史は虚を衝かれた顔をしていた。
稍の甘い「反応」が意外だったようだ。

……そっちかって、童貞でもあるまいし。

稍は笑ってしまいそうになる。
自分たちはもう三十歳を過ぎてしばらく経つというのに……

しかし、そのとき、智史が年相応になった。
スイッチが入ったように、目の色に熱が帯び始めた。

こんな目になった男が、この先どのようになるかを……稍はすでに知っていた。

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