偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

ヴヴヴ…と智史がはいていたディーゼルのカーゴパンツのポケットから、バイブ音がした。

だが、智史は気にも留めず、稍の滑らかで弾力のある肌に、我を忘れて夢中になっていた。

ポケットの中の音が、鳴り続ける。
切れる気配はない。

「さ…智くん……で…電話……鳴ってる」

かろうじて突端が隠れるだけになっていたブラトップの胸元を押さえて、稍が言った。

智史はちっ、と舌打ちして、

「……気にすんな」

稍が押さえた手をふり(ほど)いて、今度こそカップを完全に引きずり下ろそうとする。

「電話……出て」

けれども、稍の「ガード」は堅かった。

はあっ、とため息をついて智史は起き上がり、ポケットを荒々しくまさぐってスマホを取り出す。それでも、まだ稍を跨いだままだ。

発信者の名を見て智史は顔を(しか)めた。
ぽつり、とその名をつぶやく。

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