偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
Chapter8
♧帰郷♧
のぞみは新神戸駅に到着した。
稍は品川駅でもここでも、階段のすぐ前に止まる車両に乗れるのはすごく便利だと思った。
グリーン車の「特典」である。特に、今日のように荷物があるときはなおさらだ。
GWの真っ只中で、ほかの車両は寿司詰め状態なのにもかかわらず、グリーン車でゆったりとしたシートに座って快適に過ごせたのはありがたかった。
(フットレストやアームレストをぱかっと開けてテーブルを取り出すのなんかは、以前大阪から名古屋に行った際に乗った近鉄特急のアーバンライナーでもあったぞー、と稍は思ったが)
智史は車内販売で買った弁当を食べるとき以外は、ずーっとタブレットを出して仕事していた。
各座席にコンセントが備えられていて、智史がバッテリーを充電するのに使っていたので、稍も一応スマホ用の小さなバッテリーのプラグを差し込んだ。ユニクロでもらったものだ。
連休明けの智史のスケジュールは「アシスタント」をしていた稍が一番知っている。
かなり忙しくなるはずだ。
だが、派遣は智史によってクビにされてしまったから、もう稍が携わることのない仕事だ。
せっかく慣れてきておもしろそうな仕事だ、と思えてきたところだったのに……
「……情報処理関係の資格を取ろうかなぁ」
そうすれば、派遣や再就職するにも幅が広がる。
「なんや……ヒマすぎて、拗ねてんのか?」
ブルーライトカットのリムレスの眼鏡をかけた智史が稍を見た。
「これだけやっといたら、今夜はゆっくりとおまえの相手ができるからな……朝まで寝かさへんくらいにな」
智史が稍の耳に口を寄せて囁く。
……いやいやいや。今晩は「明日」に備えてしっかり睡眠とらなあかんし。
稍は完全スルーして、窓の外の秒殺で過ぎていく景色を見た。