偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「TOMITAでは、社内のITシステムを開発するための陣頭指揮を執るプロジェクト(P)マネージャー(M)ってのをやっていた」

稍が智史の口から会っていなかった期間のことを聞くのは、初めてだった。

「外部から招聘したアメリカ帰りの社外取締役によって、合理的かつ大胆な改革が提案されたまではよかった。おれも早急になんとかせなあかんと思うてたからな」

稍がいた証券会社もそうだった。
たぶん国内の至るところである話なのだろう。
十年一日のごとく過ごしてきた会社にとっては、今が「過渡期」なのだ。

「いかんせん、社内には人員が少なすぎた。
せやから『外注』せんと仕方なかった」

智史は適宜ハンドルを回しなから、前を見据えて淡々と話す。

「しわ寄せは、おれら社員ではなく『下請け』に行ってしまった。おれの指揮系統ではなかったが、システム(S)エンジニア(E)が一人自殺した」

過労死ラインを大幅に超える超過勤務を、親会社に黙ってやっていたらしい。
TOMITAという大企業との仕事である。
下請け会社としてはなんとしても「成功」させたかったのだろう。

亡くなったSEに関しては、早急にTOMITAの副社長が遺族の家に謝罪に行き、慰謝料を提示したことはもちろん、下請け会社に残っていた勤務記録を出させて開示して労災認定の協力をしたことから、訴訟になることは免れた。
そのため、ニュースにはなったが、さほど大きな話題にはならなかった。


だが、智史にとっては他人事(ひとごと)ではなかった。

たまたま、自分が指揮を執っていたプロジェクトでなかっただけで、過酷な勤務体制を敷いていたのはどこも同じだった。

もしかしたら……死なせていたのは、自分かもしれない。

< 316 / 606 >

この作品をシェア

pagetop