偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「もともと、TOMITAでは車をつくる現場とシステム開発部門との乖離が甚だしいな、とは思うてたんや。そんなときに、母方のばあさんの葬式で従兄と再会した」
それが魚住課長だ、と智史は言った。
智史の母親、登茂子の兄の息子である。
だが、魚住の親が離婚したあと母方に引き取られて以来、疎遠になっていた。
……そういえば、あの切れ長の目が課長とよう似たはったなぁ。
「それで、TOMITAのことについて相談したら『うちの会社の社長に会うてみぃへんか?』って誘われて、ステーショナリーネットの葛城社長に会うことになった」
葛城社長を一目見るなり「新しい人」だと、智史は感じた。この人の傍でこれから変わりゆく「新しい世の中」を見てみたい、と思った。
のちに、MD課のチームリーダーとしてスカウトするときに、石井にそのことを話した。
すると、石井が『僕もそう思って親会社の萬年堂には行かず、こっちに来ました』と言って、にやり、と笑った。
「それで、ステーショナリーネットに転職した。今まで目には見えへんシステムを相手にしてきたから、今の『ものづくり』をする仕事はおもろいな」
少年のような表情をした横顔を、稍は見つめた。