偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
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最近でこそ、スペインバルの店が増えたが、さすが「元祖」と言われるその店は初めてなので、とりあえずコースにしてみたのだが、気を(てら)うことのないシンプルで純朴な味だった。

昔ながらの味だというパエリアと海老の南蛮焼きが特に美味(おい)しい。
ボトルで頼んだスペインならではのシェリー酒、イダルゴ・ラ・ヒターナのオロロソ・ファラオンもどんどん進む。

震災のあと再建したという店は、すでに二十年以上経っているからか、しっくりと落ち着いた雰囲気を醸し出している。

テーブルに置かれたキャンドルの灯りをぼんやり見ていたら、不意に、智史と目が合った。

いや、彼は先刻(さっき)からずっと稍を見ていた。
稍が気づかなかっただけだ。

リムレスの眼鏡はかけていない「素」の目で、怖いくらいまっすぐに稍だけを見つめていた。

稍の顔が一気に火照(ほて)った。

智史には気づかれたくないので、顔を背けてグラスに注がれたシェリー酒をくっ、と呑む。

まるでコーヒーと見紛うかのような琥珀色のオロロソだ。しかし、キャンドルの光にかざすと透き通ったマホガニー色に変わる。

一見すっきりとした辛口だが、あとから来るフルボディのぽってりとした濃厚な味わいが、稍の口の中いっぱいに広がった。


フラメンコのライブが始まった。

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