偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

稍の座る場所からは身体(からだ)(ひね)らないと見えにくいため、智史から「こっちに来い」と言われて隣に移った。

すると、すぐにがっちりと「恋人つなぎ」される。ステーショナリーネットでの「鉄仮面の青山」が別人かと思うくらい、スキンシップをする人だ。

……麻琴さんにも、二人でいるときはこんな感じなのかなぁ。

そう思うと、いがっ、とした気持ちが稍に込み上がってくる。

……くるしい。

そのうちに、ちょうど目の前でスパニッシュギターによって奏でられる、フラメンコの荒々しくもせつなげなメロディと相まって、だんだんと哀しさが押し寄せてきた。

……ますます、くるしい。

「……どうした? 稍、気分でも悪いんか?」

智史が心配そうな顔で覗き込み、心配そうな声で尋ねる。

束ねた髪を振り乱して、手にしたカスタネットで哀愁のリズムを刻みながら、時折ファルダと呼ばれるフリルのついた長いスカートを蹴り上げる女性。

情熱的なステップが稍の心を揺らし、掻き乱す。


……くるしくって、たまらない。

< 343 / 606 >

この作品をシェア

pagetop