偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
この界隈の同じ並びに住む、さとくん……青山 智史は、稍と同い年の男の子だ。
智史は、男子に対してはよく笑っているのに、稍を除く女子には無愛想である。
だけど、整った顔立ちの上に、勉強だけじゃなくスポーツもできるから、女子たちからすっごくモテた。
だから、智史と親しい稍は、バレンタインになると、クラスの内外を問わず「青山くんに渡して!」とチョコレートを押しつけられた。
それで、稍は智史にそれらの「頼まれ物」を渡そうとするのだが、女子の中では稍だけに向けられる人懐っこい笑顔が、みるみるうちに不機嫌な顔になってしまう。
「ぼくは、ややちゃんからもらえたら、それでええんや。ほかのはいらん」
智史はきっぱりと言う。
でも、稍にだって「女子のつき合い」があるのだ。波風は立てたくない。
「さとくん、お願い……もし、受け取ってくれへんかったら、みんなに悪いから、ややもさとくんにはあげられへん」
稍が困った顔でそう言うと、やさしい智史は「仕方ないなぁ」と呆れながらも、渋々受け取ってくれる。
そして、「ややちゃん、学校から帰ったら、うちで一緒にこのチョコ食べようや」と、いたずらっ子の目をして笑うのだ。
来月に、またバレンタインがやってくる。
稍は今から気が重かった。