偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

稍の父親は大阪の会社に勤務していた。

阪神間の交通は鉄道も高速道路も、なにもかも寸断されていた。なんとかして大阪に出た父は、会社の独身寮を借りてそこから会社に通うことにした。

本当は、なんとしても家族で大阪に行きたかったが、小学生の稍の足でもバスが通っているところまで歩いて行くには困難なのに、ましてやよちよち歩きの栞がいた。
仕方なく、妻子を避難所に残した。

一方、智史の方は、母親が昨年から大阪勤務となっていて、こちらもなんとかして大阪に辿り着き、同僚の家に世話になりながら、職場に通っていた。

企業の研究所に勤めていた父親は、勤務地のポートアイランドが液状化したため「休業状態」だった。なので、智史と一緒に避難所に残り、「世話役」となって避難所の人たちのために動いていた。

稍の叔父である聡が亡くなった(しら)せを受けて、母のみどりと「身元確認」に行ったのも、智史の父の洋史(ひろふみ)であった。

みどりは一人では立ってもいられないほど憔悴しきって、洋史に抱きかかえられるようにして、避難所に戻ってきた。

稍の父親も、智史の母親も、家族を「被災地」に残してまで、大阪で働かなければならない理由があった。

住宅ローンである。

建物はすでに瓦礫となっているにもかかわらず、数年前に組んだローンは、まだ借入金の元金がほとんど減っていなかった。


そんな中、洋史の会社がとうとう従業員のために動いた。船をチャーターして、ポートアイランドまで迎えに来ることになったのだ。

智史はとりあえず、母親の実家である奈良の伯父の家に預けられることになり、転校することになった。

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