偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
電気が寸断され灯りのない夜闇の中、まるで空襲に遭ったかのように瓦礫が広がる街を、栞を抱いて先を歩く父親の背を見ながら、稍と智史がついていく。
それでなくても荷物を詰めたデイパックを背負っているのに、木片やプラスチックの容器などのゴミが散らばるアスファルトの道は、ところどころ盛り上がっていたり、電柱が至る所になぎ倒されたりしていて、とてもとても歩きづらい。
稍のペースに合わせて並んで歩く智史が、手を差し出した。
稍がきゅっ、とその手をつかむと、智史はつながれたその手にぎゅっ、と力を込めた。
巧が会社の人から借りてきたという車を停めていた場所に着いて、後部座席に乗り込んで並んで座ってからも、稍と智史はずっと手をつなぎ続けた。
そのときの二人は、互いの父親と母親がどのようになっていたのかは知らされていなかった。
智史に至っては、呼びに来るはずの父親が来ないまま、このような時間になっていた。
けれども、子ども心に「なんだか聞いてはいけないこと」とは察していた。
だれも口を開こうとしない沈黙が続く車内で、栞だけが「まぁま…まぁま…」とむずかっていた。