偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
♧対峙♧
稍は智史の腕の中で目覚めた。
「……智くん」
稍は腕の中から見上げた。
昨夜の余韻を残す熱っぽい目で、智史が見つめていた。
「今、何時?」
稍はとろんとした目で智史に尋ねた。
「六時になったとこや」
稍は、ほっ、と息を吐いた。
「あの時刻」は過ぎていた。
「……おまえも『あの時刻』が怖いんか?」
智史が稍の髪をやさしく梳きながら訊く。
「智くんも、怖いのん?」
智史の裸の胸に、稍は頬を寄せた。
二人は昨夜身体を重ねて以来、なにも身につけていなかった。
「せやから、いつも走ってる」
そういえば、起きたときにはいつも智史はすでにランニングへ行っていた。
「今日は……なんで走ってないのん?」
「おまえが起きたとき、こんなごちゃごちゃした部屋で寝てたんか、ってショック受けへんようにや……それに、もうおまえを我慢せんでもようなったからな」
智史は稍をきゅっ、と抱き寄せた。
「あっ……」
稍は震災のときに運良く家具の下敷きになるのを免れてから、極力ベッド以外の家具のない部屋で寝るようにしていた。
ホテルの部屋は最低限の家具しかないといえども、やはりテーブルやソファがある。
以前つき合っていた彼と旅行したときは、眠れずに一人ソファに座って夜を明かしたものだった。
それはまた、震災のときたまたま倒れてきた本棚が自分の方でなかった智史も、同じようなことを経験してきた。
「……めっちゃ、不思議。
こんな部屋で、ぐっすり眠れるやなんて」
稍は智史の胸から顔を上げて、にこっ、と微笑んだ。