偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……それで、栞ちゃん、大丈夫なん?一人でちゃんとごはん食べてる?」

つい稍は心配になって聞いてしまう。
これでは、実家の「母親」だ。

『大丈夫。一人やないから』

……えっ? まさか、彼氏と同棲とか⁉︎

稍は心臓がばくばくした。栞が赤ちゃんだったとき、オムツ替えもしたのだ。

その栞が……どこのだれだかわからぬ男と……

これでは、今度は「父親」である。

『今なぁ、あたし、ある作家の先生のアシスタントみたいなことしてんねやんかぁ』

ほわっとした雰囲気の栞であったが、恐ろしく勉強ができた。地元の国立大学に入学して博士課程まで進んだが、日本で二番目に賢いとされる大学だ。

子どもの頃から理数系に強かったのに、専攻に選んだのはなぜか日本文学だった。
たぶん、その関係での今の仕事だろう、と稍は察した。

『その先生との取り決めで、名前はちょっと言われへんねんけど……でも、大丈夫やから』

そう言って、栞はふふっ、と笑った。

『せやから、おねえちゃんは心配しやんといて』

「わかった……せやけど、なんかしんどいことあったら、絶対言うてくるんやで」

稍はやっぱり母親……オカンのようだった。

『うん、ありがとぉ。おねえちゃんも、慣れへん派遣はたいへんやろうけど、無理したらあかんえ』

そして、栞からの通話は切れた。

いつまでも子どもだと思っていた栞は、いつの間にか「大人」になっていた。
稍の話を静かに聞いてくれ、しっかりと心の支えになってくれた。


にもかかわらず……

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