偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
稍はワケがわからないまま、とりあえず支度してリビングへ入った。
智史はいつものボタンダウンのオックスフォードシャツにテーパードパンツではなく、スリーピースを着用していた。前髪はヘアワックスで後ろへ流している。
「おい、婚約指輪は?なんでつけへんねや?」
……はぁ?
「気の張った人にでも会うのん?
そうやなかったら、あんな高価なもの『普段遣い』できひんよ。傷付いたら絶対イヤやもん。
めっちゃ気に入ってるのに」
稍は難色を示した。
空色のケースの中で輝く〇・八八カラットのリングは、大事に、大切に、しまってある。
「偽装」とはいえ、だいすきな智史からもらった「エンゲージリング」なのだから……
稍の「一生の宝物」なのだから……
「そうか……ほな、結婚指輪にしよか?」
なぜか、智史は満面の笑みになった。
そして、リビングのテレビボードに置いてあった、黒いベルベットのリングケースを持ってくる。
ぱかっ、と開けると、二列になったそれぞれに、まったく同じデザインのプラチナリングが収まっていた。ティファニーのハーモニーのシリーズで、一番シンプルなデザインのものだ。