偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「きみも知ってのとおり、智史は親の愛情を充分に感じて育ってきた男ではない」

それは、稍も同じだった。
たとえ、遠くで自分のことを思ってくれていたとしても、離れて暮らす中でそれを感じろと言われたってなかなか無理な話だ。

「仕事は人並み以上にできるから、きみが経済面で路頭に迷うことはないだろう。
だが、他人になかなか心を許すことができなくて、愛情を受けても素直に返せない不器用なヤツだから、その点できみは悲しい思いをしたり、苦労したりするかもしれない」

魚住の言葉に、青山は「智史の顔」になって、バツの悪そうにしている。

「それでも、どうやらきみにだけは、心のうちを(さら)すことができるみたいだし、だからこそ、きみだけには甘えられるんだろう。
おれが知るうえで、そんなふうになる智史が見られるのは、きみしかいない。
……だから、智史を弟のように見てきた者として」

魚住は神妙な面持ちで、稍の目の前で両脚を揃えて立った。

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