偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「……大橋さん、ずいぶんと社長に『本性』を見せてるじゃないですか?」
青山はリムレスの眼鏡をきらり、と光らせてイヤミを言った。
TOMITAに勤務していた頃の誓子は、葛城の前ではメタボ級の猫を被っていたのである。
「ふん、オンナはね、子ども一人産んだら、暑っ苦しい猫なんか、被っていられなくなんのよ……でも、人前ではちゃあんと『装着』してるわよ」
誓子は忌々しげに青山を睨んだ。
確かに創立記念パーティでは、夫を支える楚々とした妻を、特殊メイクばりに演じていた。
「なにを言うんだ、青山君。
誓子さんがせっかく僕に、こんなに心を開いてくれるようになったというのに」
社長は最愛の妻を愛しげに見つめた。
「溺愛」というフィルターを通すと、なんでも都合よく見えるのだ。
……大丈夫か?この会社。
稍は入社初日にして不安になった。
なので……
「智くん……社長と奥様に失礼だよ」
くいくい、っと袖を引っ張って言った。
一同の顔色が、変わった。