偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
青山が書類を持って席を立った。
どうやら、魚住課長に用があるらしい。
魚住も昨日のようなスーツ姿でなく、ビームスのポロシャツにジャパンブルーのブーツカットのデニムという、とても管理職とは思えない格好だが、すこぶる似合っていた。
稍は青山が席を離れると同時に、ホッと息をついた。初日の昨日は無我夢中で仕事をしていたが、少し慣れてきた今日は却って緊張の連続だった。
すると、青山が魚住のところへ行くのを目で追っていた山口が、稍のところへ、すすっと寄ってきた。
「……ハケンさん、あのさ、ちょっと頼みたいものがあるんだけど」
山口はこちらの都合を聞くこともなく、営業先に送付する請求書と社内伝票の説明を始めた。
何件もあるうえに、それぞれの仕様が異なった。
また、締日の関係上できるだけ急いでほしいと言う。
稍の眉間にシワがよる。
はっきり言って、青山から頼まれた分だけでも、今日中に終えられるかどうかわからないのに……
それに、派遣は残業ができないっていうのに……
無責任な仕事の引き受け方はしたくなかった。
「あの……青山さんに聞いてからでもいいですか?」
だが、稍の立場上、強くは言えなかった。
「君はさ、青山さんに雇われてるわけじゃないだろ?この会社に雇われてるんじゃないか。そしたら、ほかの社員の仕事もやる義務があるんじゃないのか?」
山口はムッとした顔で言った。
稍に直接頼めば、きっと引き受けるだろうと思っていたのだ。
そのとき、低い声が聞こえてきた。
「……山口、なにをしている?」
青山の声だった。