偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……ところで、青山君」

社長が青山の顔をぐっ、と見る。

「君も身を固めたことだし、そろそろ『本来の仕事』をしてもらえないだろうか」

……本来の仕事ってなに?

「それなりのポストを用意してるつもりなんだが……奥さんの稍さんにも喜んでもらえると思うんだけどなぁ。そもそも、そのつもりで富多副社長に僕が頭を下げてまで、君に来てもらったわけだし」

「そうだよねぇ?」と社長は稍に同意を求める。

しかし、話が全然見えない稍は曖昧に微笑むしかできない。

「そうよ、青山。いいかげん、あんたの本来の能力をうちの会社で発揮してよ」

誓子もわかっているようだ。
話がわからないのは、稍だけだった。

目の前にいる「正真正銘の夫婦」は、目には見えないけれども、愛情という絆でしっかりと結ばれていることがよくわかる。

そして、自分たちには、その欠片(かけら)もないことを。

……だから、なんにも言ってくれないんだ。

派遣から嘱託になったことすら、知ったのは今日だ。社長や人事部長や魚住課長には、前もって根回ししてあったはずなのに……

稍は自分が「偽装結婚の妻」であることを、ひしひしと感じた。

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