偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
♧対決♧
稍が嘱託社員として入社して、一ヶ月が過ぎた。
今月は稍の誕生日がある月だ。三十五歳になる。
……全然違う人と結婚式を挙げるはず、やってんけどなぁ。
稍は感慨深げに思う。
だけど、今は誕生日なんてどうだっていい。
この「偽装結婚」のタイムリミットが、九月末までなのだ。それまでに「次」につながるなにか「手に職」をつけなければ、と稍は思った。
真っ先に思い浮かんだのが「コンピュータ」だった。神戸に帰って震災で亡くなった叔父の墓参りをしたときから、稍の心に芽生えたものだ。
コンピュータに関する仕事について調べてみた。
そして、ゆくゆくは基本情報技術者の取得という目標を掲げ、ステーショナリーネットにいる間に少しでも受験に至る道筋をつけよう、と決意した。
そこで、智史に「情報処理」について学びたいから、仕事の合間に通える学校に通いたいと言った。
さらに、稍はステーショナリーネットで働けるようになったから、家賃や生活費の一部を支払うことも申し出た。
すでに智史から買ってもらったものはリストアップし、ここを出て行くときに置いていくものとして、分けて保管している。
思ったよりたくさんあって、稍は驚愕した。
もちろんすべて、稍がほしいと思って買ってもらったものだ。
稍は震災でお気に入りのものをほぼ無くした体験から、形のあるものはなるべく持たないようにしていたし、また自分には「物欲」がほとんどないと思っていた。
だから、今までにつき合ってきた人からアクセサリー類をもらわないようにしていたし、別れたときはすべて返していた。