偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

その日の終業間際、突然、麻琴が稍に声をかけてきた。たぶん明日の仕事についてのことだろう、と稍が顔を上げると……

「麻生さん、急で申し訳ないんだけど、このあと一時間ほどでいいから、お時間いただけないかしら?」

「残業ですか?」

「いいえ……ちょっと……プライベートで。
ごめんなさいね。あなたも知ってのとおり、忙しくてほんと、今夜くらいしかないの」

「プライベート」っていったい自分に何の用だろう、と稍は(いぶか)りながらも、今夜は智史が得意先と引き継ぎの件で接待があって帰るのが遅くなると言っていたから、時間は取れなくはないのだが。

「わたし……あなたと、どうしても一度、話をしなきゃいけないのよ」

麻琴はそう言って、端正な顔を歪めた。
いつも華やかで潑剌(はつらつ)としている彼女のこんな表情を、稍は初めて見た。

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