偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

仕方なく「……どうぞ」と言う。

……困ったなぁ。

「八木 (こずえ)」のときに嫌われてたみたいでほとんど話をしたこともないし、なんだか苦手なのよねぇ。

「ややさん、社食にいるときは麻琴さんと一緒が多いじゃないっすかー。一人で、ってめずらしいっすねー」

……あたし、あなたから「ややさん」って呼ばれるほど、親しくないんだけれども。

「おれ、ややさんとちゃんと話をしたかったんすよ……いつも青山さんを通して、だったから」

心なしか、じぃーっと見つめられているような気がして、稍は目を逸らしてトレイの上の空豆ごはんに集中した。やっぱり旬のものは美味(おい)しい。

……あぁ、だけど気まずい。
なんで、隣なんかに座るかなー。
とっとと食べて行ってくれないかなー。

山口はトンカツがメインで、あとは大盛りの白ごはんとお味噌汁という「男子メシ」だった。

「ややさんは趣味とかあるんすか?
ちなみにおれ、学生時代に野球部で今でも草野球やってるんっすよー。あっ、今度うちのチームの試合、見に来ませんか?」

……なんで、あたしがあなたの草野球の試合を見に行かなくちゃなんないの?

「ご…ごめんなさい。休みの日は普段いいかげんにしてる家事をしなくちゃいけなくて」

それに、休みの日の午前中は、だれかさんがベッドからなかなか出してくれないのだ。

「ややさん……青山さんと暮らしていて、楽しいですか?」

今までの軽ーい口調が、突然、変わった。
思わず、隣に座る山口の顔を見る。


「ややさん……ああいう青山さんといて、
……幸せですか?」

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