偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「な…なにを言って……」

俯いていた稍は、顔を上げて山口を見た。

「ややさん……おれは本気ですよ」

怪訝な色が浮かぶ稍の目を捕らえて、山口は真剣に言う。

「おれだって、リスキーですよ……あの青山さんを敵に回すんですから……だけど、あなたをおれのものできるのなら、転職したっていい。
なんだってやりますよ」

稍の身体(からだ)(こら)えきれず、(かす)かに震え出してきた。

……どうしよう。

智くんの仕事が……智くんの部長昇格が……ダメになってしまうかもしれない。

額にはうっすらと脂汗が滲んできた。

……やっぱり「偽装結婚」なんて、引き受けるんじゃなかった。

このままでは、社長から期待されていた智くんの「本来の仕事」ができなくなる。

耳がぼおっとして、目は膜を張ったように霞んできた。

稍の微かだった身体の震えが、いつの間にか小刻みになっている。

< 559 / 606 >

この作品をシェア

pagetop