偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「な…なにを言って……」
俯いていた稍は、顔を上げて山口を見た。
「ややさん……おれは本気ですよ」
怪訝な色が浮かぶ稍の目を捕らえて、山口は真剣に言う。
「おれだって、リスキーですよ……あの青山さんを敵に回すんですから……だけど、あなたをおれのものできるのなら、転職したっていい。
なんだってやりますよ」
稍の身体が堪えきれず、微かに震え出してきた。
……どうしよう。
智くんの仕事が……智くんの部長昇格が……ダメになってしまうかもしれない。
額にはうっすらと脂汗が滲んできた。
……やっぱり「偽装結婚」なんて、引き受けるんじゃなかった。
このままでは、社長から期待されていた智くんの「本来の仕事」ができなくなる。
耳がぼおっとして、目は膜を張ったように霞んできた。
稍の微かだった身体の震えが、いつの間にか小刻みになっている。