偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
麻琴の言うとおり、その店は会社からタクシーで五分ほどの外資系高級ホテルチェーンの中にあった。
タクシーを降りて中に入ると、こんなラグジュアリーな雰囲気では走ることはできないため、智史も麻琴もできる限りの速足でその店に向かう。
「……杉山くん、この前わたしが連れてきた子、覚えてる?」
麻琴がそのバーに入るなり、カウンターに向かって早口で訊いた。
杉山は「もちろん覚えてますよ」と肯いて、
「その方なら先刻までそちらでお呑みになっていたのですが、男性と一緒に店を出て行かれました」
稍がいたハイスツールを見ながら答えた。
「ねぇ、その『男性』って、ツーブロックの髪で、ライトグレーの今時のピタッとしたスーツを着ていなかった?」
麻琴がさらに尋ねると「そうです」と杉山が応じた。
……山口だった。
「ねぇ、その二人がこのあとどこへ行くって言ってたかしら?」
麻琴が切羽詰まった様子でなおも訊くと、
「女性の方のご気分が、突然すぐれなくなって『タクシーをお呼びしましょうか』と申し上げたのですが……お連れの男性が上のお部屋のカードキーをお持ちだったので、たぶん……」
杉山は言いにくそうにつぶやいた。
智史がすぐに店を飛び出した。