偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
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美女たちから離れた魚住父子が、こちらに近づいてきた。

「魚住課長を三角形ABC、その息子を三角形A'B'C'とすると、△ABC ∽ △A'B'C'になるな」

腕組みした青山が、ぼそり、とつぶやいた。

稍が思ったことを相似記号を使って表現していた。青山は中高一貫の男子校でメインは弓道部であったが、数学部にも在籍していた。

「う…魚住課長っ!」

待ってましたとばかりに、山口が声をかける。

「あの背の高い方の美女、課長のお知り合いなんっすよね?」

「知り合いって言うほどでもないよ」

魚住は、肩に担いでいた息子を左腕に抱え直しながら言った。

息子の大和は山口を見るなり、それまでバタバタバタッと手足を動かし、キャッキャッとうれしそうにはしゃいでいたのが、急におとなしくなった。すっかり固まっている。

ところが、麻琴が「まぁ、かわいい♡」と手を伸ばして、大和の小さなぷくっとした指をきゅっと掴むと、恥ずかしそうな顔をして父親の腕にしがみついた。でも、決して麻琴の手を振り解こうとはしなかった。

青山は三歳男児の生態を観察した結果「この歳でもいっぱしの『男』なんだな」という結論に達した。

「魚住課長、あの人、うちの会社の人じゃないっすよね?あんな美人がいたら、すぐわかりますもんね?営業部の取引先関係の人っすかね?独身かな?彼氏はいるっすよね?あんな美人がフリーなんてありえないっすよねー?でも、今はたまたまいないかもしれないっすもんねー?」

山口はマシンガンのように、魚住を質問攻めにする。

「さぁな、おれも先刻(さっき)会ったばかりだからな」

魚住は興味なさげに山口をあしらった。
実際、彼が興味があるのは妻の美咲だけだからだ。

「あのっ、課長っ……じゃあ、あの人をおれに紹介してくだ……」

そのとき、大和が口を開いた。

「……ぱぱ」

「どうした、大和?」

魚住が息子の顔をのぞき込む。

「うぅ…………おしっこ」

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