偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「取引先の前でも、ふてぶてしいくらい堂々とした課長が、自分の子どもにはあぁなるんだな」

青山の片方の口角が少し上がった。

魚住は「伝家の宝刀」と称される、相手に謝罪をするための最敬礼のお辞儀をしたときですら、一切卑屈さを感じさせない、むしろ威厳を漂わせる人だった。

「あーんなイクメンぶりを見せられちゃ、また社内で課長に告白(コク)る子が増えるわねぇ」

麻琴が愉しげに、ふふっ、と笑った。

すでに周りでは女子社員たちが、
「魚住課長、ステキ〜っ!
あんなダンナさまがいい〜っ!」
と、きゃあきゃあ騒いで身を悶えさせていた。

だが、しかし……

「あぁーっ、上着着ちゃったよぉーっ⁉︎
なんでだよぅ、あんな綺麗な『天使の羽』を隠すんじゃねえよぉっ!」

山口だけは明後日(あさって)の方を向いていた。


その視線の先では……魚住の妻であり大和の母親である美咲が、久しぶりに会った高校と大学の後輩である稍と、乾杯前にもかかわらずシャンパングラスを合わせていた。

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