偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「ハケンさん?……あの、地味な人?」
山口が素っ頓狂な声を上げる。
「あの人、地味じゃないわよ」
麻琴が片眉を上げて、反論する。
「えぇーっ、だっておれ、あの人を初めて見たとき、葬儀屋かと思いましたもん。全身、真っ黒で」
その日、稍は黒のスーツを着ていた。
「……で、麻琴ちゃんは、どうして彼女が地味じゃないと思うの?」
石井が尋ねる。少し、興味を持ったようだ。
「だって、あの人、時計がエルメスなんだもの」
麻琴が石井のノーチラスを見ながら答えた。
「ええぇっ、あの地味女がぁっ⁉︎」
山口が大声で叫んだ。
「……山口、うるさい」
初めて青山が口を開いた。いくらテラス席といえども、周りに迷惑だと思ったからだ。
山口が「す、すいません」と軽く頭を下げる。
「へぇ……麻琴ちゃん、よく見てるね。
エルメスのクリッパーで、白い貝殻のフェイスだったよね?」
石井も気づいていたようだ。さすが時計に詳しい。麻琴は、うんうん、と肯いた。
「値段も手頃で女の子に人気のモデルだったんだけど、確か廃盤になったんだっけな」