君はいないのに今日も空は綺麗で、僕は泣いてしまった。


家の鍵を開けて、入って、閉めて。

こんななんでもない普段の行動も、あと何回できるだろう。


時は無情にも過ぎていくものなのだ。

永遠と続いていくくせに、少しくらい待ってくれてもいいじゃないか。

そうやって馬鹿げた理論で拗ねてみても、時計は針を進める。


いつもと変わらない家での生活。

ご飯を食べて、風呂に入って、テレビを見たり、勉強したり、本を読んだり。


物語はいい。

世界は広いのだと教えてくれる。
そこへ連れていってくれる。

この世界も、全く不思議ではないのかもしれないと、思わせてくれる。

そんなことは、ないとわかっているけれど。

キリのいいところで、文字を映していた目を上にあげる。

しばらく動かさなかった首をグイッと上に動かすと、骨が鳴る音が聞こえた。


開いたままの本に、栞を挟む。

桃色の花弁が、たったひとひら。
あまりにも寂しい、栞。

でも、いいんだ、これは。

俺に、初めてこの世界を教えてくれたものだから。

桜と雪は似てる。
ひらひらと儚く舞って、すぐに消えてしまう。

雪も、桜のように栞に閉じ込めて、大切に大切にしまえればいいのに。

そんなこと出来ないとわかっているから、もっと綺麗に見えるのかもしれない。

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