君はいないのに今日も空は綺麗で、僕は泣いてしまった。
なんでもない会話を一定の間隔で紡いでゆく。
空になった食器は、「これは私がする」と食い下がった逢に片付けてもらった。
お前にしてもらったら意味ねぇじゃんか、少しは甘えればいいのに。
でも、してもらうばかりじゃ嫌だって彼女らしくて、どうしても了承してしまうんだ。
「ありがとうね、那知」
「いや、結局食器洗ってもらって悪い。まだちゃんと回復してねぇのに…ありがとうな」
「……那知は優しすぎて、“ありがとう”の基準が低いよ。もっと甘えればいいのに」
俺が彼女に思っていたことを、彼女が俺に言うから可笑しくなって小さく笑った。
「うん、わかった」
クスクスと笑う俺に少し首を傾げて、つられて笑う逢の笑顔は、なんとなく安心する。
土曜の昼下がり、小さな非日常のような日常。
好きな子の部屋で、好きな子とふたりきり。
こんな状況、本来の男子ならば誰しもが願っても止まない大チャンスだ。
しかし俺にとっては、だからなんだって話である。
関係ない。
好きな子とふたりきりでも、俺にはそんなこと関係ないのだ。
俺はもう、君とどうこうなろうなんて、ちっとも、これっぽっちも考えていない。