桜の君と雪の僕。
「雪人(ゆきと)、おめでと。」
鉄板のあるテーブルを挟んだ向かいに座る香春(こはる)さんが、僕を見つめてそう言う。
そういえば、初めてきちんとおめでとう、と言われた気がする。
合格した、と報告した時も、良かったねと曖昧に微笑んだだけだった。
香春さんは、僕より4つ歳上の近所のお姉さん。
ほんとにお姉ちゃんみたいな存在で、いつもいつも出来の悪い僕に熱心に勉強を教えてくれていた。
そのおかげで、僕は無事、大学受験をクリアした。
そして、春から地元を離れて遠くの大学に進学する。
香春さんへの感謝を込めて、僕は香春さんに焼肉を奢ることにした。
短期のバイトでなけなしのお金を、この日のために必死に稼いだんだ。
でも、香春さんにそれがバレると絶対に絶対にからかってくるから、なんとしても守らなければいけない秘密。
「香春さんのおかげだからね。」
僕が言うと、香春さんはいつもの得意げな顔をして僕を見た。
香春さんは、大学4年生。
地元の大学に通っていて、弓道部のキャプテンをしていた。
ちょっと気が強くて、いつも少し澄ました顔をしていて、しっかりもの。
昔から面倒見が良くて、やんちゃなのにどこか抜けた小さい頃の僕の面倒をよく見てくれた。
昔からずっと、変わらない香春さん。
昔からずっと、僕のお姉ちゃんのような人だ。