桜の君と雪の僕。
バニラアイスを食べたあと、伝票を持ってお会計をしに行くと、窓越しに雪が降っているのが見えた。
もう3月だというのに、ここ2、3日、どかどか雪が降っている。
それも、とても大きい牡丹雪。
ふわりふわりと降る雪は、僕たちの住む地方ではなかなかお目にかかれない。
お会計を済ませて外に出ると、やっぱり寒かった。
香春さんは、淡いパープルのロングコートを着て、首をすくめる。
12月に、最近買ったのと言っていたそのコートは、お菓子のルマンドを思い出させる色合いで、それをそのまま香春さんに伝えると、思いっきり肩を殴られた。
「気に入ってるのにサイテー。それ褒め言葉だと思ってる?思ってるなら雪人はモテないよ?」
そう言って、ちょっと拗ねたようにうつむいた、12月の香春さんを思い出す。
…ルマンド色のコートとも、しばらくさよなら。
そう思うと、僕の胸は、急に氷のように冷たくなった。
3歩先を歩く香春さん。
空を見上げながら、寒いね、と、白い息を吐く香春さん。
ルマンド色のコートを着た香春さん。
ふわり、と、時折、つんとした冬の空気の匂いの中に、香春さんの匂いが混じる。
どこか安心する、春の陽気のような、香春さんの匂い。
「香春さん、」
香春さんが溶けて消えてしまいそうな気がして、堪らなくなって、僕は3歩先を行く香春さんの名を呼んだ。