桜の君と雪の僕。
「なあに、雪人。」
くるりと振り返って、僕を見つめる香春さん。
いつも真っ直ぐ人の目を見る香春さん。
香春さんの視線に戸惑って、僕は視線を地面のアスファルトに落とした。
「いや、…。」
何も言えない僕に、香春さんは僕の人差し指だけを握った。
とても冷たい香春さんの手。
「雪人は、名前の通り、雪みたい。すぐに、消えちゃう。」
冗談みたいなことを、香春さんはいたって真面目な口調で言う。
うつむく香春さんの表情が分からなくて、僕は香春さんのつむじあたりを見つめた。
いつのまに、香春さんは、こんなに小さくなったんだろう。
…いや、正確には僕が大きくなったんだけど。
香春さんは、こんなに小さかったっけ。
「…香春さんは、名前の通り、春の匂いがするよ。夏も、秋も、今も。」
僕が言うと、香春さんは僕を見上げた。
そして、少しだけ笑った。