輪廻ノ空-新選組異聞-
「武田流は蘭と沖田はんやろ、な?」

追い付いてきた伊木さんは、わたしの顔を覗き込んできて。

「は?」

わたしは、多分伊木さんは色々詮索していて、ふたりになったら何か言ってくるだろうな、と予想していた。だから、落ち着いて伊木さんの目を睨んで。

「何を馬鹿げた事を」

肘鉄じゃ済みませんよ、と固めた拳に息を吹き掛けて、鉄拳を食らわせる素振りを。

「ふたりで外泊。蘭の字と二人きりで何もないとは思われんわ」

「八郎さん!わたしは見た目で仕方ないが、沖田さんまで侮辱するのは許さない!」

そんな事を考えるそっちが武田流だろ!と言いながら、パンチ…と見せかけ、股間を蹴り上げた。

変な声を上げて地面に屈みこんだ伊木さんを放置して歩く。

こんなのと暫く夫婦…。

本当に本当に気を付けて頑張らないと!!



大坂の屯所には、こっそりと入って、すぐに用意してあった着物に着替えた。
そして髪結いに髪を結い上げて貰う。

下働きの女中なら屯所にいて疑問を持たれる事はない。そして出入りの商人がいても不思議ではない。


「お待たせしました」

明里さんに仕込んで貰った所作とか、色々思いだしながら、着替えを済ませて寛いでいた伊木さんの室に、両手をついて一礼すると、膝でいざって入った。

な、何度も練習したけど…難しいっ。

「おお…」

わたしの女装を初めて目にした伊木さんは暫く動きを止めてから、声を漏らした。
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