輪廻ノ空-新選組異聞-
「益々…別嬪さんやなぁ…」

おなごやないのが勿体ない、と溜め息交じりに。

「身の丈は高いですけどね…!」

「立ってへんかったら関係のうなるわ」

「はいはい」

とにかく、行きますよ。と伊木さんを促して。

「夕方には京に着かないといけませんからね」

わたし達は舟で伏見まで行き、そこから京まで徒歩。全行程歩いてきた行きに比べたら楽だけど、女装で大股歩きは出来ない。

京では、大坂の呉服問屋の若旦那が、目を肥やす為、江戸から嫁いで来たばかりの嫁とふたりで西陣の反物を直接買い付けのために来た、という設定。



「ようおこしやす」

着いた旅籠は…三条小橋の…

池田屋…!

ぎくっとしたのは、勿論、頭の中に叩き込んだ年表に「池田屋事件」があったから。

今年の六月五日…新選組にとって大きな大きな事件が起きるんだ。

どんな事件かわからないのが…年表だけの痛いところだけど…。あと、わたしの不勉強…。

でも、前もって中を見られる好機!だ。


「おい、お蘭。何をぼさっとしとるねや?」

ハッとした。

「ご、ごめんなさい!京は旅籠のしつらえも雅なんだなと思って、見とれてました」

「御上り丸出しやな」

「だって、御上りさんですから」

「大坂の呉服問屋のご夫婦やと承っとりますのやけど」

「合うてます。嫁はんとはお伊勢さんで会うて、江戸と大坂や言うのも関係ない程にお互いに一目惚れでおました」

祝言に漕ぎ着けるまで向こうの親の説得大変でしてなぁ、と伊木さんは演技が上手い!

この時代、庶民の…特に女性は生国から出るのは許されてなくて、唯一良いのが伊勢詣りと金比羅詣りだけとか、不自由な時代なんだ。

でも結婚となれば、色んな手続きを経て移動が可能になるみたい。
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