輪廻ノ空-新選組異聞-
「まぁまぁ、それは大変なだけに目出度い事どしたな」

「おおきに」

「ありがとうございます」


室に通されると、ついいつもの癖で真っ先に障子窓を開けた。逃げ道、不審点確認。

でも普通はそんな事しない!

いけない、と気づいて。

「大通りに面して、色んなお店が見えます。旦那様、ご商売も大切ですが、京見物もさせて下さいましね」

「分かった、分かった。こどもみたいやな」

恥ずかしいことで、と主に苦笑をむけた伊木さん。

ふぅ、何とか切り抜けたみたい。

主が出て行って、中居さんが来た。

「紗英と申します」

私たちの担当だと告げた。そして、朝餉の刻限とか、その他の要望を聞きにきつつ、わたしを無表情にジロジロ見てくる。

はぁ…。
背の高さがネックだ。
こんな目立っていて秘密の活動は無理だと思う。

「朝は六つに頼んます」

他には無いと確認すると中居さんは伊木さんに笑顔を向けてから出て行った。

……臭うな。

何だか既に顔見知りみたいな。


「はぁ。疲れた」

わたしは中居の紗英さんの気配が無くなると、漸く少しだけ肩の力を抜いた。

「胡座かきたい…」

きちっと正座をしたまま、小声で漏らしたら、伊木さんがしっかり聞いていて。

「そのまま足崩して、胡座かいてもええで」

「……」

そう言うのは、もう相手にしません、と、低い声で言った。

言ったのに、伊木さんは笑うと立ち上がって、窓際のわたしの横に腰を下ろした。
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