輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしは少し悩んでた。

土方さんには言われたんだけど…。

伊木さんの過激派の密偵だという尻尾うまく掴むには、わたしへの好意を利用して、色仕掛けをするのが一番確実だと。

別に身体を許せとか言っているのではなく、うまく相惚れのように振る舞えば、伊木さんはわたしも一緒に新選組を抜けるよう持ち掛け、企てる筈と。

新選組を抜ける理由を話さない訳にはいかず、確実に始末へと持って行けるのだ。

でも…
身体を許さなくて良いと言われても。ひとつ間違えたら、強引にされて…とか考えてしまう。何より演技でも沖田さん以外に好意を示したくない。

でも、ずっと突っぱねていると、伊木さんはムキになる性分だろうとか言うのだ、土方さんは。

でも変に好意を示しても怪しまれるかも知れない。

だとしたら、ずっと突っぱねている方が真実味もある。

それにやっぱり、色仕掛けなんてわたしの誠に反するよ!

と、堂々巡り。



「受け入れもせえへんが、はっきり断りもせん、ちゅうことは、期待しとってええっちゅう風に考えるからな」

伊木さんの声に、我に返った。

「駄目です!」

私は慌てて首をふった。

「惚れたも何も、わたしは衆道じゃありませんから、そのような意味で八郎さんを見ることはありません!」

キッパリ言った。

「わたしは…今まで通り、親友が良いです。何でも話せて、ふざけ合えて。楽しく過ごしたい」

「そうか」

伊木さんは苦笑みたいな顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔になって、わたしの肩をポンポン叩いた。

「おおきに」

「こちらこそ、このようなわたしを…ありがとうございます」
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