輪廻ノ空-新選組異聞-
にしても…、と伊木さんは改めて私の肩を叩いた。

「女装や言うだけやのに、肩までこないに小さくなるもんか?」

ギクッ。

肩のパッドは明らかにおかしかったので着けない方向に決まって、素の肩なんだけど…。

「えーと。肩がいかっていてはおなごに見えないからと、肩をつぼめて小さく保つコツを明里さんに特訓されたのです」

歌舞伎の女形を思い出して下さい、とわたしは自分も明里さんに言われた事を思い出して付け加えた。

「なるほどなぁ。色々大変そうやな」

「大変ですよ」

任務の為にはそんなこと言ってられませんし!と言えば、伊木さんも頷いた。

「蘭とふたり、しっかり連携もして、下手踏まんようせなあかんな」


夕餉は外のお店で食べることになった。

三月ともなると、流石に夜の寒さも少しは和らいで。そのせいか出歩く人も多くなっていて。特にメインの通りになる三条通は結構な人の流れ。

歩きにくい…。

小股になるし、いつもと勝手が違う。

「はぐれてまうで」

先に歩いていた伊木さんが、そんな私に気付いて引き返して来た。

「つかまっとき」

……。

ちょっと躊躇ったけど…。確かにはぐれそう。しかも今は夫婦。渋々手を伸ばす。

「…自分なぁ…」

呆れたように伊木さんが繋がった手を空いた手で指差す。

「これはないやろ」

屯所に連行されそうやわ、と小声で。

「わわ、すみません!」

わたしは掴んでいた伊木さんの手首を離した。

「そないに繋ぎたないか」

言いながら、伊木さんは手をちゃんと繋ぎ直した。
< 108 / 297 >

この作品をシェア

pagetop