輪廻ノ空-新選組異聞-
寝付けないのを、伊木さんに気付かれたくなくて、呼吸も詰めて、身じろぎせずじっとしていたのだけれど…。逆に寝息もしないから起きているとバレたみたいで。

「蘭」

声をかけられた。

「はい」

「こっち向いてぇな」

「何故です」

背中を向けたまま返す。

「そないに硬うならんでも、無茶はせえへんで」

口では軽くなんでも言うけどな、と伊木さんは苦笑交じりに言ってきて。

わたしはゆっくり寝返りを打った。

「屯所と同じやと思うときぃな。まぁ、夫婦やけどな?お勤めの最中なんや」

こちらを向いて寝転がっている伊木さんは、わたしを宥めるような口調だ。

「屯所…」

今ごろ皆さんどうしてるかな…、と呟いたら「ほぼいつも通りやろ」と、伊木さんは
天井を見上げる体勢になった。

「大坂出張で隊士が欠ける事は多々あるしな」

「そうですねぇ…」

って、こんな話をしてていいのか、と急に気になった。

「聞かれたら身分がバレて大変ですよね」

「聞かれてるような気配はないで?」

……それは、わたしもちょっと探ってみたけど、気配とかは感じない。

「早く戻れるように、頑張らないといけませんね」

わたしは話を戻して続けた。

「蘭は…」

「何ですか」

「屯所では理心流のお歴々と仲良さそうに見えて…結構距離あるように見えるな」

ドキッとした。

こういう話題を振ってきた事に。

探りを入れられている、と。
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