輪廻ノ空-新選組異聞-
「その気持ちはわかる。俺も武家に混じられるとは思うてへんかったからな」

大坂の商人の家に生まれ育った伊木さんは大きく頷いた。

新選組には伊木さん以外にも、監察方に山崎烝(すすむ)さんという大坂の薬種問屋だったかな、そういう家の人もいて、大坂出身の隊士は多い方かな。京で活動するのに関西弁じゃないのは、即座に壁を作られてしまって向かないので、関西弁の隊士は重宝されてる。

「昨年、八月十八日の政変で褒章を頂いて後、新選組という名前を賜ってから、これといった活躍が出来てないので、とにかく新選組を預かってくれている会津公のためにも、お役に立ちたいと、色々考えてらっしゃいますね」

今回のわたしと伊木さんの任務もそのお考えから生まれました。と続けて、伊木さんの顔を見つめた。

「期待されています。明日から頑張りますよ」

この旅籠も怪しいし、界隈を探って、不逞の浪士が潜んでいないか、わたしがこの女装を利用して歩き回って調べてみます。と、すべき事を口にして。

「伊木さんはしっかり呉服問屋の若旦那を演じながら、西陣界隈まで行くんですから、上七軒あたりも探ってきて下さいよ」

念押しをしながら、顔色の変化がないか窺ってみたけど…。うーん、見えない。

まぁ、まだ任務は始まったばかり!急いては事を…えーと、なんだっけ…損する?…あ、し損ずる!だ。

「とりあえず、今夜はお休みなさい」

わたしは布団を被り直して目を閉じた。
< 112 / 297 >

この作品をシェア

pagetop