輪廻ノ空-新選組異聞-
最初の三日間は、伊木さんと一緒に西陣に通った。そういう事情の若夫婦という事になっているから。

同時に池田屋の人たちとも仲良くなれるように積極的に声をかけた。

紗英さんにも。

打ち解けてはくれないけど。
伊木さんの事が好きなだけと思っていたら、板前さんが長州出身だからだろうと教えてくれた。

「京訛りですけど?」

「幕府より好かれよる長州さんどすけど、余所者には厳しい土地柄やから言うて、一所懸命京訛り稽古してましたわ」

驚いた。
上手すぎるよ!

でも。
伊木さんが倒幕派の過激派と繋がっているなら、長州の人たちとも仲良しだろう。

紗英さんとも通じていて、紗英さをは事情を知っているから、新選組のわたしを敵対視して、あんなに無愛想なんだ。


番台の奥、すっかり馴染み始めたわたしは、西陣で調達した反物を何本か広げて、女将さんに品定めのアドバイスを聞いてた。

玄関先とか、奥に繋がる場所に居れば、人の出入りも分かりやすい。

最初は安心した。ここの人達が伊木さんとどこまで繋がってるか分からないけど、うまく受け入れて貰ったのだろうと。

でも、すぐに気付いた。
そうじゃないって。

受け入れたように見せて、油断させよ、なのだろう。

親しげにしながらも、警戒しているのが視線の落ち着かなさで良くわかる。

池田屋の主と女将さん、帳場を預かってる番頭さん達は完全にわたしを警戒している。

紗英さん以外の中居さん達と板前さんは何も知らない様子。

「江戸では直線を組み合わせた格子柄とか縞ねような柄ゆきが人気なんですが、京ではやはり、こういった古典柄のようなのが好まれるんですね」

帯を組み合わせた時の見せ方が難しいですねぇ、と言いながら周囲を窺う。
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