輪廻ノ空-新選組異聞-
慌てて来た道を一目散に三条小橋まで戻る。

妙に歩きやすくて、「おやおや?」って思ったら、皆「壬生狼や」と道の端に避けちゃってたから。

どの隊だろうって思ったけど、急いでいるので確かめる余裕がないまま、三条小橋に着いてしまった。

舟が丁度接岸したところ。少し探すと山崎さんが降りてきた。

「倉山」

「!!」

声を掛けたら一瞬固まったみたいになって。

「お疲れ様でした」

改めて声をかける。山崎さんがこんなふうになるなんて珍しい。

「すんまへん、若奥様。お待たせしてしもて」

倉山という偽名。番頭ということで町人髷の山崎さんは腰を折って深々頭を下げた。

「取り敢えず、疲れたでしょう、倉山。あそこの水茶屋で一服致しましょう」

池田屋と三条通を挟んで、すぐ南側にあるお茶屋さんの床几を指差して。

「へぇ、ほなお言葉に甘えて」

二人並んで腰掛ける。
左右、背後は普通の客と見定め、通りに面した床几なら建物陰から狙われたり、聞かれたりする心配がない。

「大坂より京の水が合うてるのやとちゃいますか」

ほんの数日で見違えましたわ、と続けられて顔が熱くなった。

女装のわたしに驚いて固まってたんだ。

恥ずかしい…!

頼んだお茶と桜餅が出てきたところで山崎さんは改めて口を開いた。

「忘れんうちにこの文を」

と、懐から文を一通取り出した。

「大旦那様からでおます」

…誰?

聞き返すのはもちろん、首を傾げたりもダメなので、どうにか耐えた。

でも包みの表に書かれた「蘭殿」という文字を目にしてドキンと胸が高鳴った。

沖田さんからだ。
< 118 / 297 >

この作品をシェア

pagetop