輪廻ノ空-新選組異聞-
「この変な履物は没収だ。そこの下駄を履け」

框の下に隠してあったスニーカーを、ちらりと見せられての言葉に、頷くしかない。

外に出た。大きな門をくぐって。門番をしていた人が大きな声で「行ってらっしゃいませ!」と叫んできて。驚いて、思わず飛び下がる。

でも…改めてその人を見て…。

頭の上のハゲ。
サカヤキ…。

やっぱり本当に…バクマツなんだ…と。

地面は土。
空が高い。
空気が…ピンと澄んで。
建物全部が…日本家屋で。
ビルなんてモチロンなくて。

「蘭丸!」

ポカーンと口を開けて景色に見蕩れていたらしい。
一喝されて慌ててヒジカタさん達のところに駆けた。

蘭丸、なんだ。私は。

とりあえず、状況が分かって、どうすればいいか決まるまでは…

須藤蘭丸。

元いた建物から出て…
角を曲がって、
通りを渡った敷地。
そこの道場で、私は……腕試しをされるんだろう。

もしも…長くここに居ることになるなら…ヘマをしちゃダメだよ、私。男に…新選組に混ざってても大丈夫なぐらいの腕前でないとダメなんだから。

須藤蘭丸として、男として。

コンドーさん、ヒジカタさんの後ろ姿。
背は高くないけど……腰が…座ってる。歩いてるだけなのに、隙がないんだよ。こわいよ、どうやったらこんな物腰でいられんの!

ら、らら蘭丸、ビビってちゃダメ。
気持ちを入れ替えていこうよ!

「そんなにかたくなってると、いつもの力出せませんよ」

隣を歩いていた沖田さんの言葉にさえ、ドキッと緊張が増す。

この人は…天才剣士と言われて…
なのに、それを感じさせない物腰なんだよね。
けどやっぱり…腰は座ってる。絶対何か変な事したら目にも止まらぬ早さで……

動作の基本は腰。
腰が安定していないと、どんな動作にも隙が出来る。
それを…私はお稽古ではもちろん意識するけど…

かなり、相当、凄く
根性いれないとダメだ……。

目の前が暗くなってくけど……
ひとりでは生きていけないから。
蘭丸としての一歩は…腰を据えて臨もう。


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