輪廻ノ空-新選組異聞-
文面はまだ続く。

「失敗不為様細心之注意ヲ払可」

失敗を為さない…よう、細心の注意を、払うように…だね。

「毎日貴女ヲ案ズ」

毎日案じています…。
そんな言葉で締められて、署名は…文が他人に見られた場合を考えてだろう。

「総」

とだけ記されてた。

「沖田さん…」

胸が一杯。

甘い言葉が書いてある訳じゃない。

でも。

だからこそ、真の…率直な沖田さんの気持ちが伝わってくる。

わたしは「総」の字を見つめて。そして手紙をギュッと胸に抱き締めた。

「大好きです」

小さく呟く。

溢れる気持ち。

久しぶり…とは言ってもまだ三日だけど。山崎さんと会って屯所の空気に触れたから余計に、かな。ホームシックみたい。全てが懐かしい。

抱き締めた手紙を胸から離すと、丁寧にたたんで懐に戻した。

沖田さんの触れたもの。折り目も正しく同じようにたたみ直す作業だけでも胸が一杯。

うるうるしてしまう瞳。

涙をこらえる為に、代わりに熱くなった溜め息をひとつ。

そこに伊木さんが戻ってきた。

「ええ湯やったで」

って、泣いてんのかと続いた。

「目に涙が溜まってるで」

わたしは慌てて指で目尻を擦る。

「山…じゃなくて倉山に会ったら…家が懐かしくなって…」

泣くなんて不覚です。と伊木さんから顔を逸らして立ち上がり、布団を敷き始める。

そんなわたしの肩を、伊木さんは掴んだ。

「そないに…家に帰りたいんか?」

「当たり前です」

と即答する。

「八郎様は帰りたくありませんか?」

わたしの問いに、伊木さんは曖昧に笑顔を返してきて。

「家を出て、日頃触れる事なかった様々に触れて…色々考えてしまうで、俺は」

ドキッと心臓が跳ねる。

いよいよ何か核心を吐く準備!?と。
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