輪廻ノ空-新選組異聞-
翌朝。
起きて身仕舞いをして、池田屋の皆さんに朝の挨拶をして室に戻ったら、いつもは起きてる伊木さんが、まだ布団の中。

「寝坊ですか!もう朝餉が来ますよ」

布団を剥く。

「う~」

と、低い声で呻く伊木さんの様子が変だとやっと気付いた。

「顔が赤い」

わたしは膝をついて屈んで、伊木さんの顔を覗きこみ、額に触れる。

「つべたいっ」

ビクンと肩をゆらした伊木さんだけど、パッとわたしの手を掴んだ。

「気持ちええ…」

熱があった。

「朝晩冷えますからね…油断し過ぎです」

ピシャリと言う。

実は夜中に池田屋の中をふらついているのを知ってる。

この前来た関口という変名の吉田さんとか、紗英さんと話してるみたいなんだ。

寝間着一枚でそんな事していたら、熱も出るに決まってる。

「喉は痛くありませんか?気分はどうです」

「喉…大丈夫やな。食欲は…」

余りない、と言う。

何だかいつもの覇気が無くて可哀想。昨日ちょっと見直したりもしたし…。

「滋養をつけて休みましょう」

わたしは掴まれた手を頬に移動させてペチペチと叩いて。

「卵粥を作って来ますね」

と言っている途中で襖が開いた。

「おはようさんどす」

紗英さんは入ってくると、わたしと伊木さんの様子に目を見張った。そして明らかな嫉妬心が瞳に浮かんだ。

「おはようございます、お紗英さん。実は八郎様がお風邪を召されたので、お粥を作りたいのです」

八郎様のお膳は下げて頂いて、風邪がうつらないよう、あなたは室には来なくて良いと笑顔で伝えた。

「……お粥を作ってお持ちしますさかいに、お大事になさっとおくれやす」

紗英さんはわたしを無視して伊木さんに声をかけた。

「粥は妻に作ってもらうし、あんたは近寄らんとき」

「……」

「では八郎様、暫くお待ち下さいましね」

手を離して、布団を掛け直すとわたしは立ち上がり、室を出ようとした。

「お待ちやす!」

紗英さんの低い声が力強く言う。

「勝手に厨に入らんといておくれやす」

「それはあなたが決める事ではございません。板前さんでしょ」

「お客はんに料理などさせては、うちが怒られるのどす」
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