輪廻ノ空-新選組異聞-
尾行はついた。

もうそれだけで充分だった。

伊木さんの裏切りは、あの尾行の人たちを捕まえれば、確実に証明出来る。

探索はせず、尾行の様子を伺いながら、ただゆっくりと歩いて、西陣では最初の日に色々教えて貰った織元の人と話をして帰路についた。

危険なのはここからだ。
用事を済ませる前に殺しては、異変が明らかになってしまうのは早まる。だから帰路が一番用心しなきゃいけない場面。

女装だから、刀は懐にこっそり忍ばせている小振りの懐剣だけ。

高まる緊張に耐えながら三条小橋池田屋を目指す。

途中、尾行ではない気配が付いて来ている事に気付いてハッとする。

山崎さんだ。

昨日、全てが黒だと伝えたからだろう。わたしを守る為に来てくれたんだ。

体から余計な力が抜けた。

少し余裕が生まれて、時間が気になった。

太陽は中天に差し掛かっていた。尾行されている事を意識し過ぎて歩く速度が遅かったんだ。

このままでは伊木さんとの約束を違えてしまう。

でも急に急ぐと尾行の人たちに怪しまれる。

もう三条通には入った。太陽をもう一度見上げて、時間を気にしている素振りを見せてから速足に変えた。

河原町通との交差点まできた。

何とか正午には間に合いそう。

そう思って少し歩調をゆるめたわたしを、意外な人が木屋町通に少し入ったあたりで手招きしてた。

走り寄る。

「お紗英さん」

「すんまへん、お呼び立てしてしもうて」

どうしたのか、神妙な顔。伊木さんに怒られたりして謝りに来たのかな?

「どうしました?八郎様の具合でも?」

「いえ、二人きりの所でお詫びしたいと思うて」

少し通りの奥へと進んだ紗英さんを追った。

次の瞬間。紗英さんの手が、壁に立て掛けてあった角材を押して倒してた。

「きゃっ」
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