輪廻ノ空-新選組異聞-
全てがスローモーションだった。

身構えたわたしを、後ろから強く引っ張る腕。

次には何かが被さってきて地面に押し倒されてた。

そして、ドスッドスッって、わたしに被さったものを介しても重い衝撃がきた。

ガラガラガラという音の合間、後ろも振り返らず走り去る足音。



シーンと静まり返って。遠くでザワザワという野次馬な気配はするけど…。

「う…」

呻き声にハッとする。

顔を確認する。

「は…ち、ろ…っ」

八郎さんだ。余りな驚きに声が一瞬つかえた。

でもすぐに叫びになった。

頭から血が滴ってたから。

「八郎さんっ!
八郎さんっ!
八郎さんっ!」

「はいはい、八郎だよ」


……っ!
は?

影がさして、倒れた角材を除けてくれる姿。

「こりゃまた、盛大にやられたもんだねぇ」

「八郎さん…?」

状況が飲み込めない。

「おぅ、八郎だよ」

えーっと、この上の八郎さんは…?

「おい、八郎。助けた女の前で気絶たぁ、情けないねぇ。格好がつかねぇよ」

「す、すんまへ…」

全ての角材を片付けてくれたみたい。覗き込む姿があって。でも逆光で全く判別出来ない。

「よしよし、骨にゃあ異常はねぇよ。痛むだろうがひっぺがすぜ」

なんか…凄くカッコイイべらんめぇ調なんだけど…。

と、被さってた伊木さんの体を腰から掴んで持ち上げた後、私の横にゴロンと横たえて。

「誰か、お医師を呼んできてくんな。あと戸板も持って来てくれ」

と野次馬に指示を出す後ろ姿は武家の…しかもかなり身なりがいい人。

「お内儀、大丈夫かい?」

わたしの横に戻ったその人は、屈んでわたしの体をサラッと検分した後、肩に手を回してゆっくり起こしてくれた。

顔が見えた。

…………。

何、このイケメン!!!!
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