輪廻ノ空-新選組異聞-
良い人…しかも、ずっと話してたいような好感度大の男っぷりなのに…疑ったり、警戒するのが習慣になってるよ、わたし。

えーと…

身なりが良く良い所の坊っちゃん風味。

江戸の人。

今は将軍様が上洛中。

「将軍様のご警護で上洛なさった幕臣で…八郎様、と言うお名前でいらっしゃる」

合ってますよね?と問う。

「正解。まぁ、こんなんじゃあ、察しはつけやすいだろぅ」

「そうですね」

確かにそうだ。

「あんたも江戸の出なら、伊庭(いば)道場ってぇのは知らねぇかい?」

そこの一応跡取りだ、と続けた。

ここの江戸には行ったことないんだよ、と冷や汗が出そうになったけど、それより早く、伊木さんが声を漏らした。

「心形刀流(しんぎょうとうりゅう)の伊庭八郎様でおましたか」


「勿論存じております」

わたしもすかさず、嘘の返事を…。

「大坂の商人にまで知れ渡ってるたぁ…」

驚いた、と笑って。

「手前ども夫婦は、このご時世、剣術にも勤しんでますのや」

「そりゃあまた、奇特な。どっちの味方かは聞かねぇが…頑張りなよ」

言って、伊庭さんは立ち上がった。

「それじゃあ、大事にな」


帰る伊庭さんを見送りに出た。

「本当にありがとうございました」

戸口を出て、相変わらず人通りの多い三条通に出て、頭を下げた。

「いやいや、一番の功労者は旦那だからな。ちゃんと労ってあげな」

人が困っていたら、助けるのが江戸の男よ、と笑う。

「で、お内儀はどの流派なのかぃ?」

と、小声になった言葉。

この人…伊庭さんは敵じゃないと分かって安心もしたし、わたしは耳元に気持ち唇を近づけた。絶対他に聞かれてはいけないから。

「天然理心流です」

答えるなり、伊庭さんは目を見張った。そして盛大に笑いながらわたしの肩を叩いた。

「そうかいそうかい!」

うんうん、と頷いて。

「まぁ、色々あるんだろうが、頑張りな」

「はあ」

よくわからなくて、取り敢えず頷いた。

「何か言伝てはないかい?」

「は?」

懐かしいし、寄って行こうと思う、と告げられた言葉に、今度はわたしが目を見張った。
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