輪廻ノ空-新選組異聞-
「そうだったのですか…」

本当に偶然だったんだ…。

もし、その偶然が無ければ、わたしは…。

ゾッとする。

「紗英さん…わたしを痛め付けたい程、憎んでいるんですね」

でも何だか腑に落ちない。

紗英さんは当然ながら様子を見に戻って来たけど、やけに遅くなかった?普通倒して鎮まったら、そこでどうなったか、こっそりでも見るよね。相手が嫌いな人だったら余計に、その成果を知りたいだろうし。

でも…伊庭さんが助けに来てくれて、伊木さんが戸板に乗せられた頃、慌てて駆け寄って来た。

なんだかグルグルする。

考えがまとまらない。

突然の事故…故意の被害だっただけに恐怖と腹立ちも大きい一件、そして伊庭さんの登場。

でも…。何にせよ、目の前で包帯を頭に巻いて、横たわる伊木さんが、わたしの為に風邪なのに、更に怪我をしている事実は大きい。

紗英さんには嫌われていたのだから、警戒もせず簡単に招きに応じた自分の至らなさが申し訳ない。ちゃんと慎重になっていれば、こんな怪我をさせる事はなかったのだから。

「八郎さん…。本当にすみません…」

はぁ…。
落ち込む。

「……気にせんといてくれ。蘭が怪我せんかった事が俺には何よりや」

「……八郎さん…」

敵対する立場のわたしに、ここまで身を挺した事をしてくれるなんて…。よっぽど…わたしの事を好いてくれてるのかな…?

でも…大坂に恋人がいて、池田屋にも紗英さんという人が伊木さんの事を物凄く好いていて…。

風邪の原因となってる深夜の行動。
外出したわたしを尾行させる行い。

証拠は揃ってるけど…心情的な色々がわたしを混乱させる。
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